この第16章を読むと、パウロがこの手紙をどんな思いでしたためてきたのか、その思いの一端が垣間見えます。パウロはここでたくさんの人の名前を挙げています。プリスカとアキラ、エパイネト、マリア、アンドロニコとユリア、アンプリアト、などなど・・・。パウロは彼ら一人一人の顔を思い浮かべながら、この手紙を書いたのではないでしょうか。そして、パウロの背後にもたくさんの人がいます。ローマのキリスト者立ちに福音が届けあれるように祈り、願ってくれている仲間たちが。「キリストのすべての教会があなたがたによろしくと言っています。」この「よろしく」というわずか四文字に込められた思いは、どんなに深く、豊かなものであったことでしょうか。共にキリストの福音に仕える者たち同士の「よろしく」です。福音が彼らの絆だったのでした。
「神は、私の福音すなわちイエス・キリストについての宣教によって、あなたがたを強めるおことがおできになります。この福音は、代々にわたって隠されていた秘儀を啓示するのです。その秘儀は、すべての異邦人を信仰による従順へと導くようにとの永遠の神の命令に従い、・・・。」秘儀と言っていますが、別の言葉に訳すなら「神秘」です。原語のギリシア語では「ミュステーリオン」という言葉が使われています。英語のミステリーの語源です。イエス・キリストについての宣教、それは神様の秘儀、神秘、ミステリーだ、と言います。キリストが神様の秘密を私たちに明かしてくださいました。
秘儀は普通は明かされないことに価値があります。秘めておくものです。しかし、イエス・キリストについて宣教、福音は、明かされ、宣べ伝えられることを求めているという点で、他の秘密とは違っています。キリストの福音は、明らかにされることを求める神秘です。
主イエスが明かしてくださったミステリーは、例えば旧約聖書というミステリーです。このローマ書では、旧約の律法にあらわされていたミステリーがつまびらかにされていました。神様は、律法に映し出される私たちの罪深さにもかかわらず、何の功績もなく私たちを救ってくださいます。このように、神様は惜しみなく秘儀を明らかにしてくださいます。私たちはキリストによって示された神の愛から、新約聖書も、旧約聖書も読むことができるのです。キリストが明かしてくださる愛の神秘が、私たちを生かしてくださいます。